相馬御風 「良寛さま」より
しらみの競争
良寛さまの着物には、よくしらみがたかりました。しかし、良寛さまは平気でした。ときどき良寛さまは、たいくつになるとは、着物にいるしらみをとって、それを何匹も何匹も紙の上に這わして、眺めたのしむのでした。
しらみは紙の上をあちこち這いまわります。足のはやいしらみもあれば、のろのろしているしらみもありました。良寛さまは何匹ものしらみに徒歩競争をさせて面白がりました。
こんな風に、さんざんしらみを遊ばせてから、良寛さまはそれをまた一匹一匹つかまえては、自分の着物につけました。のみでもしらみでも、良寛さまは一匹も殺したことがないのでした。
あるとき良寛さまは考えました。
「もしわしの着物にいるしらみやのみが、松虫や鈴虫のようにいい声で鳴く虫だったら、わしのふところの中はどんなに賑やかだろう。まるで武蔵野の原のようだろうな」
そこで良寛さまはそのことを歌につくって見ました。
のみしらみ音に鳴く秋の虫ならば
わがふところは武蔵野の原
そして、
「なるほどこれはおもしろい考えじゃ、アハハハハ」と自分で自分の歌を面白がって、時々それをうたってはよろこんでいました。
徹底してます。
ここまでくると、生き物を害するなんて頭に浮かばないのでしょう。
生きてるものはなんでもかわいいし、楽しんでます。
新聞を読みますと、生命を言葉で害したり、暴力で害したり、あげくの果ては殺したり。うんざりするくらいそういった記事があります。
人間は悪いことを好みますので、すぐにそれに塗れます。
でも塗れたら、困るのは、害された生命ではなくて、最後は全部やった自分が受け取ることになります、これって怖いですね。
良寛さまは、悪いことを好みません、長年の修行で培ったものなのか、元々の性格なのかはわかりませんが、ここまで徹底していると言うことないです。
生きとし生けるものが幸せでありますように。